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    上映を中止する映画館が複数出ていることで物議を醸しているドキュメンタリー作品、『靖国 YASUKUNI』だが、観ることができた。

    圧力とか右翼団体による妨害がどの程度のものであったのか分からないが、映画館側の腰の引け具合は少し情けない。
    どんな思想の作品であれ、表現の自由を守ることは、文明国の必須条件だろう。
    国粋的な事物にメスを入れた作品がタブーとされるなんて、まだまだ未熟な国なんだな、と思う。
    国会議員等の検閲めいた事前鑑賞などは、時代錯誤というか、ちょっと信じられない事態だ。
    深作欣二監督の『バトル・ロワイアル』のときもそうだったが、文化的な知識に乏しい政治家の不当な干渉は、非常に迷惑で、思い上がりもはなはだしいと思う。
    とりあえず、「映倫」があるんだからさ。

    内容を見る限り、この中国出身の李纓監督のスタンスは、まあまあバランスが取れていて思慮深いと感じた。
    靖国神社の存在、ありよう、そこにまつわる人々に、怜悧な疑問を投げかけているが、それは「靖国」をテーマとしている以上、至極当然だろう。
    問題を切り取ってゆくのがドキュメンタリーなんだもの。

    上映する上で問題とされたのは、後半の「戦中の映像のモンタージュ」シーンらしい。
    捕虜の首を日本刀で切断している写真などが映される。
    日本は、昔から「刀による斬首」の文化があるので、私はそれほどショッキングには感じなかった。
    それよりも、「捕虜殺し」が行われていたかどうかが、国際法上の焦点、責任問題となっていると思うが、ここら辺の事実認識は、右派と左派で全く異なる。
    だが、この映画にとって、この部分は最大の焦点ではなさそうだ。
    そのあとに、日本の少年兵による特攻の映像などもある。
    「日本人そのものも戦争被害者である」という視点、バランス感覚を忘れていない。

    ただ、右翼側の登場人物に、あまりまともな人が出てこなく、そのあたりはちょっと偏ってる気はした。
    まあ、なかなかそういった人が見つからなかったのかもしれないが。

    こういったイデオロギーの問題は、とかくヒステリックになりやすい。
    コミニュケーションにおいて、癇癪を起こしたり、暴言を吐いたり、手が出たりするのが最悪なわけで、解決が遅れ、収束の糸口もなかなかつかめないという状況に陥っている。
    この映画を観るまでもなく、問題の根は深いことは、多くの人が感じている。


    この映画では、右翼系団体のコスプレめいた滑稽にも見える神社での儀式、台湾人による反対運動、小泉元首相の参拝にまつわるさまざまな反応…
    これらが、靖国神社に今も刀を納めている、90歳の刀匠による日本刀製作過程と同時進行で語られてゆく。

    この編集がとてもうまいと思うのは、この刀匠のつくる日本刀が、茫漠たる「日本の精神」を結晶化したものではないか、と言っているからである。
    この刀匠がうたい上げる、あの徳川光圀が作ったとされる、「日本刀を詠ず」といううたが紹介される。
    これが素晴らしく美しく、かっこいい。


    蒼龍猶(な)お未だ雲霄(うんしょう)に昇らず
    潜んで神州剣客の腰に在り
    髯虜(ぜんりょ) 鏖(みなごろし)にせんと欲す策無きに非ず。
    容易に汚す勿(なか)れ日本刀


    これは簡単に言うと、「日本の外敵を滅すためにはまだ時期尚早である、辛抱せよ」といった意味らしいが、同時に、例えば「葉隠」などの侍の精神や、古来よりの神性を、日本刀に託すという情熱的なうたでもある。
    髯虜(ぜんりょ) 鏖(みなごろし)っていうところはちょっとまずいけど、江戸時代の感覚だからしょうがないだろう。

    つまり、神が、魂が日本刀に宿るという思想である。
    日本刀こそが、右翼系の思想、「大和精神」といわれるものを象徴している、というわけなのである。

    これは相当鋭い視点であると思った。
    ヒステリックな部分を引き出す磁場ともなる、靖国の性質を具現化して、全編にその主題を配置してみせる巧妙さ。
    中国出身の監督が、問題提起のみにとどまらず、ここまで深く日本の思想に肉薄できたことは、賞賛に値するだろう。

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    映画批評・情報記事へのコメント
    k.onodera | 2008/05/20 |
    コメントありがとうございます。

    私もノンポリではありますが、この映画がそこまで中立性に欠け、「特定アジア、一部の東アジア」諸国側の視点に立ちすぎた映画とは感じられませんでした。
    たとえそのような視点に立っていたとして、それを許さないことは少々狭量ではないかと思っています。
    逆に、自分の主張が無い作品の方がつまらないです。

    >「戦争崇拝者」で靖国神社が成り立っているような誤解
    >「日本文化としての靖国刀匠」が「戦争神社にそそのかされてアジア諸国の無辜の民を殺戮した武器の製造者」という「一方的な思考」

    とのことですが、そういった部分が全く「間違っている」といえるでしょうか。(「戦争崇拝者」というよりは「国粋主義者」だと思いますが)
    あまり自虐的になることもないとは思いますが、そういった側面があることは、私は非常に勉強になりましたよ。

    普通に普通の映画館で上映すれば大した興行成績を残せない作品で、「右・左」系のコメンテーターが熱く議論するほどのものではないというところは、全く同意いたします。

    社会的な影響力からいうと、ここ数年インターネットの煽動により、日本、中国、韓国を含めた、東アジアの若者たちがどんどん右傾化していっていることの方が、よっぽど脅威ですね。

    ノンポリ | 2008/05/20 |
    「靖国」見てきました。
    正直、退屈な時間を浪費した感じです。
    テレビやネットで所謂「右・左」系のコメンテーターが熱く議論するほどのものではないと思いますし、それが上映中止等の動きを煽ったとすれば大問題だと思います。普通に普通の映画館で上映すれば大した興行成績を残せない作品としてすむような作品ではなかったかと思います。
    只、内容に関しては従来の「特定アジア、一部の東アジア」諸国側からの「靖国観」でしかなく、中立性のかけらも感じられませんでした。「戦争崇拝者」で靖国神社が成り立っているような誤解ある映像の組み立て、「日本文化としての靖国刀匠」が「戦争神社にそそのかされてアジア諸国の無辜の民を殺戮した武器の製造者」という「一方的な思考」を観客に刷り込む「作為」が見え見えでした。そしてあえてナレーションを入れないことで観客がさも「自らの良心」でこの映画に対する結論を決定させるような巧妙な作りにいかがわしさを感じました。



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    サーカスな日々 2008/12/22
    日本人の誰もが知っているようで実は知らない「靖国神社」の現実と精神構造に、『味』の李纓(リー・イン)監督が挑んだドキュメンタリー。軍服を着て参拝する集団や合祀(ごうし)に反対する遺族たちなど、さまざまな思いが行き交う終戦記念日の様子を活写。神社のご神体である日本刀「靖国刀」を作る刀匠にも取材し、靖国刀がもたらした意味を解き明かしてゆく。戦後60年以上をへてもなお、国内外で物議を醸す靖国問題の根深さを考えさせられる。[もっと詳しく] この「靖国」の空間に、僕たちの奇妙なこの国の現在が、露出している。


    soramove
    2008/07/07
    「靖国 YASUKUNI」★★☆騒ぐほどでもない 李纓 監督、2007年、中国・日本、123分 靖国神社へ行ったことはない、 日本の総理大臣が参拝すると 周辺国がにわかに騒がしくなるのを 他人事のように見る、 自分もごく一般的な日本人と思う。 話題のドキュメン...


    soramove
    2008/07/03
    「靖国 YASUKUNI」★★☆騒ぐほどでもない 李纓 監督、2007年、中国・日本、123分 靖国神社へ行ったことはない、 日本の総理大臣が参拝すると 周辺国がにわかに騒がしくなるのを 他人事のように見る、 自分もごく一般的な日本人と思う。 話題のドキュメン...


    銅版画制作の日々
    2008/06/22
     8月15日、靖国神社は祝祭的な空間に変貌する。   6月10日、京都シネマにて鑑賞。連日満席状態が続き、立ち見も出ています。観客の年齢層も高いですね。私が鑑賞した時間も多かったですが、立ち見になるところまではいかなかったようです。それにしても、これだけの動員数、やはり宣伝効果ももちろんですが、何といっても上映されるか?どうか?という微妙な経緯もかなり影響したからでしょうね。政治的背景も絡んでいるので、上映にあたっては、かなり反対も出ただけに・・・・・。そうなると、人間の心理状況とし


    ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!!
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    映画コンサルタント日記
    2008/05/10
    上映劇場: 渋谷シネ・アミューズ5月3〜6日(4日間)動員/興収: 3429人/


    雑談日記(徒然なるままに、。)
    2008/05/07
     日隅弁護士の場合は再会と言うのは不正確かもね。NPJの発足集会の時にこちらは聴衆として参加していただけで先生の方はオイラのことはもちろん知らない。  今日、『靖国 YASUKUNI』を鑑賞と言うことでCINEAMUSE EASTに行ったのだけれど、入口の脇に見覚えのある顔が、。(笑)前に書いたこのエントリーでは(ヤメ蚊)さんとは気がついてなくてNPJの初代編集長とだけご紹介してます。その後、ブログかなにかで見たのか、つかつかと先生の前に歩み寄った時には頭の中はすっかり(ヤメ蚊)さんと思っていて、「ヒガキ


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